今回は、2023年11月23日に公開された、北野武監督の『首』のレビュー記事です。
北野武が構想に30年を費やして監督・脚本を手がけ、「本能寺の変」を題材にした戦国スペクタクル映画ということで、期待を大に劇場に足を運びました!
結論、私には合いませんでしたが、バイオレンス好きの方におすすめの映画です。
『首』作品情報
公開年 | 2023年11月23日 |
上映時間 | 131分 |
製作 | KADOKAWA |
監督・脚本 | 北野武 |
原作 | 首」(角川文庫) | 北野武「
キャスト | 明智光秀:西島秀俊 織田信長:加瀬亮 難波茂助:中村獅童 黒田官兵衛:浅野忠信 荒木村重:遠藤憲一 曽呂利新左衛門:木村祐一 徳川家康:小林薫 千利休:岸部一徳 | 羽柴秀吉:ビートたけし
上映シネコン | TOHOシネマズ、ユナイテッドシネマ、109シネマズ、イオンシネマなど |
『首』あらすじ
天下統一を掲げる織田信長は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・荒木村重が反乱を起こし姿を消す。信長は羽柴秀吉、明智光秀ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じる。秀吉の弟・秀長、軍司・黒田官兵衛の策で捕らえられた村重は光秀に引き渡されるが、光秀はなぜか村重を殺さず匿う。村重の行方が分からず苛立つ信長は、思いもよらない方向へ疑いの目を向け始める。だが、それはすべて仕組まれた罠だった。
果たして黒幕は誰なのか?
引用元:映画『首』公式HP
権力争いの行方は?
史実を根底から覆す波乱の展開が、
“本能寺の変”に向かって動き出す―
『首』感想(ネタばれなし)
時代劇を期待したのですが、史実の流れには沿っているものの、バイオレンス、ヤクザ映画の印象を受けました。
ジャンルとしては理解できますが、見ていて気分が良いものではなく、私にはハマらなかったです。
あとは、俳優陣が豪華なだけに、ビートたけしの滑舌の悪さや表面的な演技が浮いており、ストーリーにいまいち入り込めませんでした。
感想をまとめるとこんな感じです。
- 戦国版アウトレイジでエログロ描写が多い
- 斬首シーンや血しぶきのシーンが多い
- 私利私欲むき出しの人間臭さを前面に描く
- 中年の男色シーンが満載
- 理解しがたい狂気的な登場人物が多い
- 特に織田信長を演じた加瀬亮のイカれっぷりに拍手
- ビートたけしのノリ・コント色が強い
- 好きじゃないとしらけがち
- 時代考証を無視した登場人物の年齢が気になる
- 明智光秀(西島秀俊)若すぎ、羽柴秀吉(ビートたけし)老いすぎ
- 合戦シーンは迫力満点
- 衣装が綺麗(衣装デザイナーは黒澤和子さん)
戦国の世に綺麗ごとなし!人間の根源的な欲求を徹底的に描く
新しいなと思ったのは、戦国武将を決して美化・英雄視せず、人間のドロドロとした部分のみで描き切っていたところです。
主君への忠誠心を根源とした『武士らしい』生き様を描くのではなく、生存本能、出世欲、人間の好き嫌い、嫉妬心を行動の根源とした、人間臭い生き様しか登場しません。
戦で手柄を立てて成り上がりたい百姓(中村獅童)なんて、まさに。
織田信長(加瀬亮)筆頭に、登場人物は狂気的な振る舞いの人が多いです。
世の移り変わりが激しく、安全欲求が満たされない戦国時代では、正気を保ちながら生きるほうが難しく、狂気的な人が実際に多かったのかもしれませんね。
忠義だの武士としての在り方は建前で、こっち(映画)のほうがリアルに近かったのかな・・・とも思いました。
特に最近の戦国時代を舞台にしたエンタメ作品は、民のために泰平の世を目指す戦国武将の描き方が多かったように感じます。
「戦を無くしたいから天下を取る」という武将像ですね。
それは綺麗ごとであって、ただ生きるため、ただ偉くなりたいから、ただ上司が気に入らないから、みんな天下人を目指していたのかもしれない。
そう考えると戦国時代はバイオレンス性が強い時代なので、北野武監督ととても相性が良いのかもしれません。
この作品を見て、自分が綺麗に脚色された時代劇ばかり見てきたことに気づかされました。
たしかに大河ドラマなんかは綺麗に描きすぎていると感じるのですが、俳優のイメージや万人受けを意識すると、しょうがないのかなと思いますが、この作品は、万人受けのまさに対極にあります。
いる?コントタッチなやり取りと中年男色
個人的につらかったのは、これでしょうか。
随所にビートたけし特有の悪ノリやアドリブっぽいコントタッチなやり取りがあるのですが、羽柴秀吉がビートたけしにしか見えなくなるので、全然いらなかった。
ストーリーに集中できなくなるので、鬱陶しく感じました。
たけし軍団?が好きな人たちにはハマるのでしょうか・・・
あと、中年男性の同性愛描写がちょっとしつこい。
登場人物たちの狂気性、欲求、人間らしさの表現のひとつではあったと思うのですが、個人的にはなくても良いのではと思いました。
バイオレンス好きにおすすめします
とにかくずっと人が死にます。
単純に戦のシーンが多いのと、一族が河原で皆殺しにされるところや、道中で襲われたりします。
表現もグロめです。生首、血しぶきがたくさん飛びます。
人の死が身近で、軽く、常に起こる。これがリアルな戦国時代だったのかもしれませんが、時代劇よりかはバイオレンス映画でした。
新しい歴史的解釈が描かれているわけでもないので、日本史が好きだから見てみたい、という人よりは、北野武監督のバイオレンス映画が好きな方が、楽しめる作品だと思います。
【ネタバレあり】秀吉の●●説について
!ネタバレ注意!
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今作品の見せ場のひとつは、羽柴秀吉の「本能寺の変」黒幕説ですね。
秀吉の黒幕度合いの濃淡はあれ、最近よく見かける説のため、特段新しさは感じませんでした。
ただ、光秀が謀反を起こした理由はおもしろいと思いました。
信長が家臣に跡目を継がせることを期待させておいて、実際は嫡男に継がせる気だったということを知った秀吉が、それをネタに光秀に謀反を起こすようけしかけるのです。
忠義を尽くし、家臣団の中でも高く評価されていた光秀は、信長のその「裏切り」がどうしても許せず、「本能寺の変」を起こしてしまう、というストーリーです。
常識にとらわれず、革新的なことを次々と成し遂げてきた信長ですから、跡目は嫡男ではなく、実力次第で家臣に譲る、という発想があってもおかしくない。
これはこれで筋が通っているような気がして、しっくりきました。
「本能寺の変」を起こした実際の理由は謎のままですが、こんな理由だったのかも・・・・と想像する時間って楽しいですよね~
「本能寺の変」の後の歴史は、みなさんご存じの通りですが、秀吉はけしかけた光秀を計画的に討ち(山崎の合戦)、天下人の座をかっさらいます。
欲しいものは手に入れる、ずる賢い秀吉をしっかり描いていました。
ちなみに、羽柴秀吉の「本能寺の変」黒幕説をほかにも見たい方は、映画『GOEMON』や、漫画『信長を殺した男~本能寺の変 431年目の真実~』がおすすめですよ。
さいごに:『首』をおすすめする人
『首』はこんな人におすすめです!
『首』をおすすめする人
- ビートたけしが好きな人
- バイオレンスのジャンルが好きな人
- 綺麗ごとではない人間の欲望が詰まった時代劇が見たい人
気になった方は、ぜひ見てみてくださいね!